端境期に強い作型の作り方 — 最短距離で“足りない時期”を獲りにいく設計術

栽培

対象読者:小〜中規模の個人・家族農家(ねぎ作付 5–40a/総作付 5–80a、労働 週8–20時間、家族1–3名体制、年売上 300–1,200万円目安)/副業で単価を取りにいきたい人


この記事でわかること

  • 端境期(はざかいき)の正体と、価格が跳ねるメカニズム
  • “狙う週”から逆算する作型の設計手順(10ステップ)
  • 作型の強度を上げる3レイヤー(品種×環境×流通
  • 東海〜関東の平坦地(中間地〜暖地)向けモデルカレンダー
  • ねぎ・にんにく・しょうがの端境攻略メモ(副業×週2日稼働対応)
  • よくある失敗パターンと回避策、チェックリスト

小〜中規模の目安(数値)

  • ねぎ作付面積:5–40a(片区5–20a×2面のイメージ/例:B18a・C15a)
  • 総労働時間:週8–20時間(週1–2日)
  • 人員体制:1–3名(家族中心)
  • 年間売上:300–1,200万円(ねぎ比率高め/加工含む)
  • 機械規模:中型管理機(5–8PS)+半自動定植機(トラクターは外注でも可)

端境期とは?

市場での供給が薄くなり単価が上がりやすい“すき間週”。

  • 典型例:**初夏(4月下旬〜5月)初秋(9月〜10月)**は多くの品目で谷ができやすい。
  • 価格が上がるのは“希少化”と“品質のバラツキ増大”の二重効果。安定品質で出せるだけで勝てる期間です。

端境を獲る考え方はシンプル:

  1. 狙う週を決める(曖昧に月ではなく“第◯週”まで落とす)
  2. そこから逆算し、播種・定植・被覆・追肥・収穫のトリガーを設計

作型設計の10ステップ(逆算式)

  1. 価格が高い“週”を仮決め(過去2〜3年の相場メモでOK/体感でも可)
  2. 狙い週の幅を設定(最低2週、できれば4週連続で波状出荷)
  3. 品種特性を整理(耐暑・耐寒・抽苔、日長反応、栽培期間)
  4. 育苗/定植時期の候補を2つ以上(早着手・本命の二刀流)
  5. 環境ギミックの選択:マルチ(黒/銀/透明)、不織布・トンネル、遮光、ベタがけ、敷き藁、かん水頻度、畝高・暗渠
  6. 施肥設計:生育曲線に合わせ、狙い週にピーク品質が来るよう追肥を前後させる
  7. 分割定植・分割収穫:同一作型を2〜3バッチに小分け
  8. 収穫前の“調整余地”を用意:被覆の開閉、灌水、刈り上げタイミングで±7〜10日の調整幅
  9. 出荷形態の複線化:JA・直販・契約・加工(乾燥/発酵/貯蔵)
  10. 週2日運用の動線設計:固定曜日で回る週次ルーティン表を作る

端境に強い“3レイヤー”

  • 品種:抽苔しにくい・耐暑/耐寒の明確な系統を選ぶ。ねぎは夏越し強い長白系、しょうがは早生/晩生で収穫波を作る、にんにくは早生〜中晩生を組み合わせる。
  • 環境
    • 温度:トンネル・ベタがけ・遮光(30〜40%)・マルチ色で微調整
    • 水分暗渠+高畝で過湿回避、点滴でリズムを作る
    • :銀マルチ・敷き藁で地温/反射光コントロール
  • 流通:貯蔵(キュアリング)、加工(黒にんにく)、規格バリエーション(長さ・束数・カット)で**“売れる週”を増やす**

モデルカレンダー(東海〜関東の平坦地)

目安。年ごとの気象で±2〜3週のズレを想定。

ねぎにんにくしょうが
1–2冬どり最盛。貯蔵・規格分けで単価確保休眠・低温貯蔵貯蔵しょうが販売(薬味/加工)
3春先の端境入り口:軟白・若どり需要活着準備(種球選別)種しょうが伏せ込み準備
4–5初夏端境:抽苔管理・遮光で品質維持新物の葉にんにく〜生にんにくトンネルで初期生育加速
6–7夏越しの山。遮光+灌水で倒伏回避収穫・乾燥・キュアリング→黒にんにく加工追肥・敷き藁で地温安定
8–9秋口端境:B区(夏どり後半)/C区(冬どり定植開始)—分割定植が効く乾燥球出荷/加工切替新しょうが開始(高値期)
10–11C区(冬どり)立ち上げ/B区は更新・畝準備黒にんにく安定出荷新〜中しょうが最盛
12冬どり安定。選別で単価維持加工品・ギフト需要貯蔵切替・温湿管理

圃場イメージ(A/B/C)

  • B区:夏どり1作(目安:7–9月)。高畝+暗渠+遮光30–40%で倒伏・抽苔を抑える。
  • C区:冬どり1作(目安:11–2月)。風よけ・ベタがけ→トンネルで保温、遅れ年は被覆で+7〜10日調整。
  • A区:他作・輪作(例:菜の花/にんにく・しょうが等)。端境補完や土づくりに活用。

品目別:端境攻略メモ

ねぎ(長ねぎ)

  • 狙い週B区(夏どり)7–9月C区(冬どり)11–2月。端境は7月前後と9–10月に山が出やすい。
  • 設計
    • 1作×2面(B=夏どり/C=冬どり)+分割定植:各区を2〜3バッチに分け、波状出荷を作る。
    • 環境:高畝(25–30cm)+暗渠。不織布ベタ→トンネル→遮光へ段階切替。夏は30–40%遮光。
    • 作業省力定植機×中耕管理機、雑草は抑草マルチ+通路除草ロボで週2日運用。
    • 品質調整:倒伏前に軽い土寄せ、収穫前7–10日でかん水/被覆で節間を締める。
  • 保険
    • 規格複線(太・中・細/長さ別)で“外れ週”も売り切る。
    • 夏の高温年は**出荷遅らせ(遮光+軽いかん水)**で端境週へ寄せる。

にんにく

  • 狙い週生にんにく(5–6月)と乾燥球の端境(9–10月)。加工で通年化。
  • 設計
    • 品種分散:早生+中晩生。抽苔タイプ/無抽苔を混ぜ、収穫を波状化。
    • キュアリング:収穫後21–28日で乾燥→貯蔵。ここで端境を“作る”。
    • 加工黒にんにくで在庫を価値化。低コスト化の鍵は断熱・均熱(庫内温度±1–2℃)。
  • 保険:過湿は病気の元。暗渠+高畝+敷き藁で玉太り維持。

しょうが

  • 狙い週:**新しょうが(8–10月)貯蔵しょうが(冬〜春)**のつなぎ目。
  • 設計
    • 早生/晩生をミックスして波を作る。
    • トンネル+敷き藁で初期地温を確保、梅雨期は排水最優先。
    • 規格:根茎サイズ別、葉しょうが規格も用意して端境前後を刈り取る。
  • 保険貯蔵は温湿管理(12–14℃/高湿)でロス低減。

週2日稼働でも回る“週次ルーティン”(例:土・日のみ)

  • 土曜(畑日):除草(ロボ稼働確認)→中耕・土寄せ→被覆開閉→定植/追肥→収穫Aロット→出荷準備
  • 日曜(仕上げ日):収穫Bロット→選別・規格分け→箱詰め→月曜AM出荷(JA/契約/直販)→加工(黒にんにく庫の巡回)

分割定植×分割収穫で“端境4週連続”を狙う。各バッチは7–10日ずらし。


よくある失敗と対策

  1. “月”で設計してしまう第◯週まで落とす。週の粒度が端境攻略の最小単位。
  2. 単一作型・一発勝負2〜3バッチに分解し、被覆で速度調整。
  3. 水管理軽視 → 端境期は極端気象が多い。暗渠・高畝・点滴で再現性を確保。
  4. 出荷先が単線 → 規格・チャネル複線(JA+直販+加工)。“売れる週”を増やす。
  5. 省力化の後回し → 週2日運用では機械の段取りが生命線(定植機・中耕管理機・除草ロボ)。

チェックリスト(公開前の最終確認)

  • 狙いが4連続で設定されている
  • 同一品目で2品種以上を採用
  • **分割定植(7–10日差)**の設計がある
  • 被覆・遮光・灌水で±10日の調整余地を確保
  • 出荷チャネルが2つ以上、加工・貯蔵の選択肢あり
  • 週2日で回るルーティン表ができている

ひな形テンプレ(コピペ可)

狙い週:第__週〜第__週(__月)
品目/品種:__/__
作業計画

  • 播種:__月__週
  • 育苗:__℃・__日間/硬化:__日
  • 定植:__月__週(バッチ1)/__月__週(バッチ2)
  • 被覆:ベタ→トンネル→遮光(__%)
  • 追肥:__月__週/__月__週
  • 収穫:__月__週〜__週(A/Bロット)
    品質トリガー:節間・太り・葉色/被覆開閉の基準
    出荷先:JA ___ / 直販 ___ / 契約 ___ / 加工 ___

まとめ

端境期は“運”ではなく設計で作る季節。品種×環境×流通の3レイヤーを組み合わせ、
第◯週まで落とし込んだ逆算設計と分割バッチで、週2日でも“高単価4連週”は十分に獲れます。まずは1品目でよいので、来季の端境4週をひな形で設計してみてください。

この記事の前提:ねぎはB・C区(田んぼ2面)で運用します(A区は他作に使用)。以下の表記はB/Cに統一しています。


追記(運用メモ)

  • 圃場条件:元田の転作は暗渠+高畝が最優先投資。ねぎ・にんにく・しょうが共通で効く。
  • 設備:定植機/中耕管理機/除草ロボ/(黒にんにく庫は断熱・循環優先)。
  • 販売:ギフト・規格差活用・加工で“売れる週”の幅を広げる。

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